2006年02月13日

「咳で死んだおばあさん」

僕は二軒屋町で生まれ、その後両親と共に新興住宅地に移る事になる。
だが祖母は、二軒屋に残り、祖母の家は自転車でいける実家となった。
今でこそ、俳優の大杉蓮氏などがいたと言われ、それなりに下町として有名になっているが、僕が少年時代の頃は、 あまり県内でも有名ではなかった。
出身の僕が言うのもなんだが、ひどく閑散した町であった。

その街で祖母は花屋を営んでいた。
某寺の門前町として栄えていた通りで花屋を開いていたのだ。
無論、お客は日々、墓参りの客である。

当時、父はサラリーマンとして、八万町という新興住宅地にマイホームを建て、 高度経済成長の波に乗っていた。
そんな中で、僕は週末祖母の花屋に泊まりに行った。
現代チックなマイホームと対照的な祖母の花屋は、僕の脳髄を刺激した。
なんとなく、二軒屋に、レトロな日本風景を感じたのである。
ある時、僕は風邪をひき、扁桃腺をはらした。
苦悶する僕。兎に角、小さい頃からやたらに喉がはれる子だった。

それを見た祖母は僕を強引に連れだした。
「しんどいけん、婆ちゃん、やめて、どこ行くん」
「黙ってついてきい、咳で死んだおばあさんに頼みに行くけんな」
「せっ、咳で死んだばあさん」
僕は気が動転した。
確かに咳で死んだおばあさんと祖母は言った。
死人に挨拶に行くとはどういう事だろう。
口を開けて、あわあわ言っている僕はいつの間にか小さな祠の前にいる。
ちょうどおっぱしょ石の斜め前にある祠だ。
「この祠にお参りしとき、風邪から助けてくれるけん」
祖母が言った。
この祠は旅の途中、咳で死んだ人を埋めた祠で、咳に苦しむ人がお参りする
と症状が改善するとされている。
「うん、わかったわ」
僕は神妙に手を合わせた。

すると、不思議な事に翌日、僕の風邪は見事に快復した。
(咳で死んだおばあさんのおかげやな)
この時、僕は怪異と不思議を初めて実感した。

 

投稿者 johohiroba : 15:48 | コメント (0) | トラックバック