2005年06月24日

おっぱしょ石 その2

おっぱしょ石はその後再びしゃべる事はなかった。
あのおばさんの冗談なのか。それとも妄想であったのか。
今となっては不明であるが、あの奇妙な夜の事は忘れられない。

-それからしばらくしての事である。

昭和50年代の初頭だったと記憶しているが、いや…定かではない。
おっぱしょ石で、ある事件が起こった。
おっぱしょ石に落雷が落ち、真っ二つに割れたのである。


伝説上では、通行人にしゃべりかけ、侍(異説では力士)におんぶされた後、放り投げられて割れたはずである。

二分割された石がなぜ完成体で、今もあるのか。
それが、かねてから私の疑問であった。
その為、子供心におっぱしょ石に割れ目がないのが納得いかなかったのであるが、実際に割れてみると、これまた不気味この上なかった。 リアルすぎるのだ。
しばらく、おっぱしょ石の断片は本体に立てかけられた状態で放置されていた。
ちょうどその頃、誰が言う事もなく、近所の子供たちの間で奇妙な噂が立ち始めた。
”おっぱしょ石の前を通る時に雷が光ると切り傷ができる”
この噂は私にとってこの上もなく恐ろしかった。
祖母の家から叔母の家に行く場合、必ずおっぱしょ石の前を通らざるえないのだ。
そして、間違いなく私はお使いで”あの道”を歩かせられるだろう。
ある夜、私は祖母の使いで叔母の家に向かう事になった。既に空には雷光が輝いている。
いやな予感がした。こう場合、私は妙にタイミングがあってしまうのだ。
私が恐る恐るおっぱしょ石の前を通過しようとした時、雷が鳴った。
一瞬周囲が昼間のように見えた。やばい。私は恐怖のあまりその場にうずくまったが、
そのまま駆け出し叔母の家に向かった。叔母はやさしく迎えてくれた。
どうやら私に切り傷はない。やはり単なる噂だったのか。
私は安堵し、叔母宅で使いの用事を清ますと祖母の家に引き返そうとした。
ふと叔母の手を見ると包帯を巻いている。
「どうしたの?」
私がなにげなく聞くと、叔母は苦笑いしながら答えた。
「さっきの稲光でおどろいて手を切っちゃったのよ」

非常に恐い体験であるが、この話は後に講談社「学校の怪談7」に収録される事になる。

なお、この本が私の商業誌デビューの記念すべき最初の1冊目である。
後に「妖怪進化論」で学研ムーミステリー大賞を受賞する事につながり、プロへのきっかけとなるのだから、人生はわからない。

なお「学校の怪談7」の裏表紙の見開きには本名の間(はざま)という私の名前が見えるのだが、 収録された話が少々オーバーになっており、私が失神した事になっているのには苦笑させられた。
このように自分の怪異体験に尾鰭がつく事が一番”妖怪じみた話”なのかもしれない(笑)

投稿者 johohiroba : 20:36 | コメント (0) | トラックバック

おっぱしょ石 その1

昭和41年、私は徳島市の二軒屋に生まれた。
当時は空襲を免れた戦前からの屋敷も多く、古い町並みが子供心にも不思議な感覚を抱かせた。休日に両親と買い物に出かけると、 老いた戦傷軍人が街角でアコーディオンを弾く姿が見られ、郊外の空き地では、子供たちがウルトラマンごっこに興じていた。
そして、日本は高度経済成長を迎える。
…昭和と呼ばれたあの時代。
僕らの周りにあった”不思議”はどこにいったのか。
まだ戦争が終わってから20年しか経ってなかった。

 あれは昭和40年代末の事である。当時小学生だった私は、祖母の家に泊まっていた。

既に両親は新興住宅街に新居を構え、週末だけ私は祖母の家に泊まるのが習わしだった。 当時花屋を営んでいた祖母の家には、日々大勢の花売りの老婆が出入りし、祖母は花の卸しを行っていた。
そして酷く暗い夜だったと記憶している。
祖母が店を閉めようとしていた時の事。一人の女性が店に駆け込んできた。
常連の女性である。息が乱れていた。
「まあ、そんなに慌てて どないしたん」祖母が女性に話しかけた途端。
「今、おっおっぱしょ石がしゃべった」 確かに女性はそう言った。
「そんなアホな話があるかいな~」祖母は笑って相手にしなかった。

「おっぱしょ石」とは現在も徳島市二軒屋町にある史跡で、かつて夜毎、通行人に 「おっぱしょ~(おんぶして)」と呼びかけたという伝説が残されている。
いぶかしむ祖母を尻目に、女性は真面目な顔で続けた。
「さっき、おっぱしょ石の前で、昔なー、ここではおっぱしょ、おっぱしょという声が聞こえたんよ~って、話を知人としてたら…」
「そしたら、どうなったん?」せかすように祖母が聞く。
「おっぱしょ石のあたりから、まだおるよーって声が聞こえたんよ」
女性は吐き出すように、語り終えた。
唖然とする祖母。奇怪な話に横にいた私もなまつばを飲み込んだ。
まさか、おっぱしょ石が復活し、しゃべったというのか。
子供心にもその女性の体験談に興味を持った。
しかし、当時既に妖怪少年であった私は、水木しげるの妖怪図鑑にのっていた話と今回の体験談が酷似している点に気が付いた。
つまり、この”かつての妖怪伝説を語る人間たちに、妖怪自身がまだおるよ~”と叫ぶ展開は妖怪「油すまし」の出現パターンである。
何故、「油すまし」と「おっぱしょ石」の人間をおどかす手口が酷似しているのか。
これは冗談だが、妖怪が人間をおどかす時に使用する手順書のようなものがあるのだろうか。
かと言ってこの女性が妖怪マニアで、「油すまし」の話をもとに「おっぱしょ石の復活妖怪談」を創り上げたとは思えない。嘘にはみえなかった。
油すましのネタと、かぶってるで、おっぱしょ石さん!といろいろ考えているうちに。
「妙な話やな、ちょっと調べてみるで~」
はっと思いついたような顔をした祖母は、近所にすむ親戚の者を呼ぶと、女性とおっぱしょ石周辺を探索に行った。
しかし、その夜は何も発見されなかった。

投稿者 johohiroba : 20:29 | コメント (0) | トラックバック